今日はファッションデザイナーという職業がなんなのか、について考えてみたいと思います(笑)
TV情熱大陸で、新進気鋭の若手デザイナー、greenの大出由紀子さんが出演。
http://www.mbs.jp/jounetsu/2006/10_15.shtml
その番組を見ていた人達は、自らをデザイナーではなく洋服屋と呼ぶ大出さんのこだわりに、共感し賞賛したに違いないと思うのです。徹底的に素材や縫製にこだわって作るその姿は、とても真摯でまっすぐです。greenの人気の高さにも納得がいくでしょう。
でも自分は彼女の言葉に、脳髄の奥でチリチリとした違和感を覚えずにはいられませんでした。というのもファッションデザイナーという職業の考え方が、実際の洋服屋とあまりにギャップがあるように思えてならなかったからです。
彼女はこういっています。
「一回着てダメになっちゃうようなものは絶対作らない。作りたくないって、いっつも思ってます」
一回着てダメになるような服を作っているデザイナーも確かにいますが(笑)、そんな底辺のデザイナーと比較して一体何が言いたかったのでしょうか?
新進気鋭の新世代テーラーとして雑誌などでも数多く紹介されているテーラー&カッターの有田氏は、浮き足立つこともなくごく普通にこう言っています。
「お客様と一緒になって楽しんで作り上げていくスーツですから、10年、20年と大切に着ていただきたいですね」と。
別にオーダースーツなら10年20年と着ていくのは当たり前であり、有田氏はごくごく普通の感覚で言っているだけなのでしょう。そしてそれだけ愛着の持てるものを作っているという自負心もあるから出てくる言葉なのだと思います。
一体ファッションデザイナーという人たちは、何年着てもらいたいと思って服を作るのでしょうか?一回着てダメになるようなものとの比較…その視点はあまりにレベルが低すぎると思わずにはいられないのです。
大出さんはこうも言っています。
「あいだを抜かしてジャンプしようとしたりとか、真面目にやらないのが嫌い」
話は変わりますが、アレキサンダー・マックイーンは老舗テーラーのアンダーソン&シェパード、ギーブス&ホークスで修行してテーラリングのいろはを学んだ、今では珍しいタイプのデザイナーです。
彼はその修行時代、数年間毎日トラウザーズ(パンツ)しか作らせてもらえなかったそうです。
これは別段珍しいことではありません。テーラーは職人世界であり、徒弟制度のような形で何年もの修練を積んでようやく一人前と認められる。はじめは簡単なパンツ作りからやらされるのは当たり前のことなのです。そして時に基礎を学ぶため、布の切れ端にボタンホールだけを何百何千と黙々と縫い覚えていく世界…。
マックイーンはテーラーでの修行時代に来る日も来る日もパンツを作っていく中で、体が覚えこむようにテーラーリングが体感できたのだと言っています。
そして今では多くのデザイナーがテーラリングの重要性を唱えています。
「あいだを抜かしてジャンプしようとしたりとか、真面目にやらないのが嫌い」
…本人は真面目にやってるつもりでも、ハタから見たら3段跳びどころか十段跳びで階段を上がっている。なのに、それが自覚できていないというのはあまりに視野が狭く、そして時に滑稽にすら映るのではないでしょうか。
別に自分は大出さんを卑下しているわけでも、greenというブランドが嫌いなわけでもありません。むしろこの大量生産時代にこれだけこだわって服作りに携わる姿は称賛に価すると思います。
ただ大出さんのそのこだわりは、テーラーなら誰でも持っている物であり、逆にごく当然のことだとしか思えなかったのです…。
本当の洋服屋たるテーラーが斜陽産業と化し、職人の腕がどんどん失われていく中で、
世にデザインが氾濫し、テーラリングの技術を持たないファッションデザイナーが洋服屋を名乗り脚光を浴びる時代…。
そこに大いなる矛盾を感じるのは、自分だけなのでしょうか…?
情熱大陸/green 大出由紀子~ファッションデザイナーという職業の疑問
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コメント
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なんだかうまいこと言ってるようで的外れですね。