ファッションブランドの服は本当に適正価格なのか?


服の実際の原価は1割ほどで、残りは流通、人件費、そして後は多大な粗利(純利益?)…。

何しろセールで半額にしても利益が出る値段設定になっているのだとか。(しかし最近それでも、服飾業界は売れないで困っている…)

で、そういうこと考えていると、実際デザイナーズブランドの服について、デザイン料の適正価格ってあるのだろうかと考えてしまいます。
服好きの人でさえそんなものあってないようなもの、と考えがちですが…、実際にはお金も手間もかかるデザインとそうでないデザインが存在するのです!


私は自分の持っている服の縫製や価値が気になり、よく身内の元テーラー職人に見てもらったりしてました。
まぁたいていは、「そんな服に何万もかけてもったいない、雑な縫製だ」って答えばかりなのですが…。

であるとき、コムデギャルソン・オムプリュスのシームデザインのスーツを見せたのですね。

知らない人に説明しておくと、シームシリーズというのはプリュスを代表する有名なデザインの一つです。表と裏をひっくり返したようになっており、表側に縫い代(シーム)が張り出したデザインでした。とにかく前衛的でありつつも優れた発想と高い完成度で、個人的に好きなシリーズの一つだったのです。

それを見せると、いつもと違った答えが返ってきたのです…。「相変わらず縫製はそれなりだが、これをテーラーで作り直したらとんでもない手間がかかる」と。

答えは単純、パターン(型紙)が特殊だったのです。

パターンが特殊だとなぜ手間がかかるのか?
それはメンズのスーツには完全な基本パターンがあるからです。
逆に言えばメンズ服にはとてつもない制約があるのですね。

平面である生地を人体に沿うようにするためには、生地をバイアスにつかったり多くの切り替えやダーツを入れる必要があります。(レディースでは顕著ですが)
ところが男性のスーツには、シームやダーツ一つとっても入れる場所と数が決まっていたりする…。
(じゃぁ平面の生地をどうするかって言うと、アイロンによって生地を丁寧に曲げていく作業によって立体化していくのですね)

基本的パターンが同じなら、一般的なデザイナーズブランドのスーツなんかを、テーラーでコピーしてもらうことは難しいことではありません。
同じ生地さえ用意できれば、多少値段はあがるかもしれませんが、より高い縫製レベルでコピーすることができるはずです。
ましてやまともな職人なら、ちょっとしたパターンの違いは簡単に取り込めると思っていいでしょう。

ですが、テーラリングの基本を破壊して一からパターンを作り直すとなったら、そりゃオオゴトです。そういったデザインをなしえるためには、相当テーラリングに精通していなければならないのでしょう。

デザイナーが必ずしも洋服について詳しいわけではない、それどころかパターンさえ引けないデザイナーも少なくないという話しだし…そう考えると、制約だらけのメンズ服のパターンを再構築するということは、とんでもなく高度な技術が必要だといえるわけですね。(もしくはデザインのできる技術あるパタンナーが必要ってことでしょうか?)

色柄を変えたり、生地を加工したり、基本パターンにちょっとアイディアを付加するといったデザインだって、もちろんすばらしいものも多いと思います。
ただそれよりも、パターンを再構築することは目に見えて困難で手間隙かかるデザインだといえる。ある意味価値がわかり易いということだと思います(笑)

メンズでパターンの再構築をするブランドは多くないように感じますし、ましてやそれをクラシックスーツの領域にまで高めていけるテーラード技術のあるデザイナーはごくわずかだと思います。(かつてのアルマーニはともかく、個人的にハンツマンと組んだマックイーンはどうなのか?気になりますが、実物見たことないからなんともいえません…)

コムデギャルソン・オム・プリュス(メンズのコレクションライン)は、テーラードの破壊と再構築をテーマにあげることが多いのですが、特にパターンを再構築したデザインはすばらしいものが多いと思います。(あくまで素人判断で…という逃げは用意させといてください笑)

中でも2003年秋冬には、曲線による切り替えによって、背中にセンターシームのないデザインのJKを発表してました。
ちなみに既存にもセンターシームのないスーツが全くなかった…というわけではありません。イタリアの老舗テーラーなどでは、その代わり超絶アイロンワークを駆使して立体化していたそうです…。
ギャルソンはそれとは違った手法で、スーツのパターンを壊して見た目的にも面白い新しいパターンを作りあげた。その挑戦と完成度は素直にすごいと思うのですが、どうでしょうか?(ただその思想に工場の技術が追いついているかどうか…というのは別問題だと思いますが笑)

クラシックスーツを尊ぶ一方で、やはり全く新しいパターンのスーツを見てみたい…そう思ってしまう自分でした。

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