立体裁断って、意外と勘違いしている人が多いですよね。
曰く「人間の身体は元々立体なんだから、立体裁断を売りにするのはおかしくね?」とか、
「テーラリングは元々立体裁断だろ~」とか。
実はこれ、両方とも勘違いなんですよね。
洋服作りに携わっている人には今更だとは思いますが、
「立体裁断」とは、「立体的な構造の服」を指す言葉ではなく、「立体上で裁断していく手法」のことです。
辞書で調べると、こうでてきます。
「洋裁で、人体や人台に直接布地を当てて形を定め裁断する方法。ドレーピング」
立体裁断(ドレーピング)に対し、平面上で型紙から展開作成していく方法を「平面製図(平面裁断)」と呼びます。
立体裁断について更に詳細を知りたい人は、下記のサイトが参考になると思います。
http://www.katagamihiroba.com/pa-rittai.html
http://www.rittai.net/Pages/1st/thinking1.html
なんで立体裁断が「立体的な構造の服」を指す言葉みたいになってしまったのか?
これは一時期、雑誌BEGINなんかが「立体裁断の服」を煽ったせいで、言葉だけが一人歩きしてしまったんでしょうね。
以来、「立体裁断」という言葉が「立体的に構築された服」みたいに誤解されて、その方が素晴らしい…という、誤った認識みたいなのができてしまったのだと思います。
一般的に、立体裁断の方が直感的かつ迅速にシルエットやドレープを構築できるので素晴らしいが、平面製図より技術を必要とされる、と考えられているようです。
元々立体的な体系を持つ女性のための婦人服なんかは、古くから立体裁断を行っていたようです。
また今では多くのデザイナーたちが、メンズのジャケットなども立体裁断にて作成していたりします。(必ずしも立体裁断というわけではありませんが)
ただ立体裁断で作成した服も、量産するため(&グレーディング:サイズ展開したりする)には一度平面図に落とし込むわけですから、立体裁断で作成した物も、結局は平面展開できるはず。
ただ逆に平面製図から立体裁断的な服作りをするためには、とんでもない経験と技量が必要になってくるわけですね。
一般的に言う「テーラリング」は、基本的には全て平面製図にて型紙(パターン)を作成していきます。
メンズのテーラリング(仕立て技術)でなぜ平面製図を行っているのかには、2つの理由があると思います。
1.メンズのスーツは、レディースほど複雑なパターンではなく、一定の規則の中で作れるから。
モード(特にレディース)のように複雑怪奇なパターンがなく、基本的パターンが決められているテーラリングでは、立体裁断は必要ないのでしょう。
2.テーラリングを習得したテーラーには、立体裁断の必要がないから。
テーラリングの技術を身につけ、スーツを採寸から完成まで一人でぬう為には、最低でも十年の修行が必要だといいます。
それだけの経験と技術を持ったテーラーは、採寸から立体を即座に意識して、それを平面に置き換える技量を持っているわけです。
経験量が違うのです。
つまりスーツ作りにおいて、少なくともテーラリングと立体裁断には何の関連性もありません。
モードのような特殊なデザインに関しては、本来テーラリングの範疇である手法に立体裁断を応用することもあるのかもしれませんが、それはかなり特殊な状況なのではないでしょうか?
しかし、「立体裁断 テーラリング」でネット検索すると、続々イージーオーダーサイトとか某ツープライスショップとかが出てきます。
そしてそんなサイトには、「立体裁断のテーラリングを駆使したスーツ」とかいう、おかしな言葉が売り文句として飛びかっているわけですね。
正直「お前ら!基本から間違ってるだろッ!立体裁断の意味もテーラリングもわかってねぇだろッ!」
と内心ツッコミまくりですよ。
でも今のファッション業界では、立体裁断もテーラリングも、単なる宣伝文句の一つになってしまっている場合が多いのかもしれませんね…。