言語とイメージ


日本人と欧米人では、色彩感覚の鋭さが違うらしいのです。

なんでも日本人の方が、より多く色の微妙な差異を見分けることが出来るのだそうです。それもそのはず、日本語には西洋とは比べ物にならないくらい色自体を表す言葉が多いのですね。文化の違いにもよるのでしょうが、言語とイメージは切っても切り離せないものであり、言語自体が感覚を豊かにするということなのでしょう。

なにせ日本人は水墨画にみられるように、白と黒の濃淡の世界から、無限の色の広がりを感じることのできるイメージ豊かな人々なのです。

ところがそんなイメージ豊かなはずの日本のファッション雑誌を見ると、いつも決まりきったカタカナ語が飛び交っています(笑)


アヴァンギャルド、フェミニン、ガーリッシュ、コケティッシュ、パンキッシュ、マニッシュ、フォークロア…。

確かに英語等には、日本語に訳しにくい言葉や、日本語にはないイメージがあるのはわかります。しかし決まりきったカタカナ言葉を幾らなんでも安易に使いすぎじゃないのか?って思ってしまう。ファッション雑誌のライターは、写真に頼りすぎて語彙が貧弱になりすぎなんじゃなかろうか?

もはやアヴァンギャルドって言葉自体が死語同様で、全然アヴァンギャルドじゃない。(極論?) 「前衛!」と表現した方がなんぼか前衛的だと思うんですけどね。

別にファッション用語に限った話じゃないですが、グローバルなんて言葉は十年以上前から新聞で使われてますけど、未だにグローバルなんて言葉使っていること自体が、世界的視野のない証拠なんじゃないの?なんてウガッた見方してしまいます。

ちなみに言葉のボキャブラリーが少なくても何とかなりそうな車雑誌のライター(その分知識は半端じゃすまない)は、数年やると結構稼げるそうです。しかし言葉で表現しづらいため、ものすごい言語を駆使しまくるグルメライターは、層も厚いせいか大成するのはとても難しいのだとか。なんだかおかしな世界です…。

物書きならば、自分の書いた文章について責任を負うことは当然でしょう。しかしインターネットによって掲示板やメールどころか、ブログまでもが一般化した今、普通の人が文章を公表することが当たり前になってきた…。ところがじゃぁ文章に対する責任まで覚悟できているのか…というと中々難しい…。自分を省みると(笑)

というよりも、立派な学者でさえ、言語をまともに使えない人もいるわけです。

例えば「全然」という言葉は必ず否定形で使われるというのが、文法上の約束と教育されていますが、実際には大間違いなのだそうです。

「週刊文春の怪」という本の中で、「全然」という言葉が否定形だけに使われるようになったいきさつが書かれています。

何でも昔から日本各地では「全然~である」という肯定的使い方もしていたのだけれど、教科書だか辞典のお偉い編纂者が気がつかずに間違って統一してしまった。後に間違っていたことを謝罪したけれど、黙殺されそのまま教育されて否定形の使い方が定着してしまったという話です。

芥川や夏目漱石も「全然」を肯定的使い方しているわけで、その本の中では「教科書の編纂者ってヤツは芥川さえ読まない無教養な人ばかりなのか」と思いっきり馬鹿にされていました。まぁその通りなんでしょうけれど(笑)

でもそれよりも憤りを感じるのは、差別用語についての意識の低さでしょうか。

昔デザイン学校に通っていた頃、韓国留学生が結構いたにもかかわらず、先生達の中には平気で「バカチョン」という言葉を使う人がいました。お前らその意味わかって言ってんのか?と憤慨し、一度教師に注意したこともありました。でもそれでも人の言葉って簡単に直らないんですね…。

「ブラックジャック」の中に、差別用語についてブラックジャックが怒るシーンがあるんです。奇病を持つ人に「かたわ」と差別する子供に対して、ブラックジャックが「かたわなんて言葉を使うな!私もそう言われて育った人間なんだ」と怒るのです。
差別用語の重さを語った名シーンの一つだと思っていたのですが…。ところが文庫版にはそのシーンの台詞が丸々変えられていた…(驚)
「かたわ」の代わりに「病人」という台詞まわしに変わっていたのですが、これでは差別用語に対して怒るブラックジャックの意思が無意味になってしまうじゃないですか!

色々な配慮があって修正を余儀なくされるのは仕方ないと思うのです。でも一つの言葉を消し去ってしまったからといって、その行為(差別)自体がなくなるわけではないのです。
その言葉と行為は切っても切り離せない。本当に必要なのは、その言葉と行為のもつ重さを理解することのはずではないのでしょうか…。

文章を書く上で、言葉の重さを感じることは、中々難しいことではありますが、言葉を駆使するのは人間だけである以上、決してその責任から逃れられないのだとも考えています。難しい問題です。

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