アルジャーノンに花束を


アルジャーノンに花束を〔新版〕(ハヤカワ文庫NV)
ダニエル・キイス 小尾 芙佐
4150413339


かつて本好きなら誰もが知っていた名作にして、今や知らぬ者なき感動作、「アルジャーノンに花束を」。そのあらすじは以下の通りです。

「主人公チャーリーは、IQ60代の知的障害者。彼は周りの人間からバカにされていることさえわからず、勉強して頭が良くなれば友達も増えて幸せになれると考えていた。
そんな彼は幸運にも実験の被験者となり、知能改善の手術がほどこされることになる。

手術は成功し、チャーリーは幼児並の知能から徐々に大天才へと変貌を遂げるのだが、実はその手術には最大の欠陥があったのだった…。
一度は天才となったチャーリーは、急速に知能が後退していくのだった…」

主人公のチャーリーは、頭が良くなればきっと幸せになれると考えていたのですが、逆に天才になるにしたがって自分がバカにされていた事に気付き、誰からも理解されずにどんどん孤独になっていくのです。それは彼の求めていた幸せとはほど遠い世界でした…。

この物語を読むたびに、知識を得ることが本当に幸せなのかという疑問を感じてしまうのですね。(読後は大抵泣いてますが…笑)
別に大天才にならなくとも、同じようなことは自分達の身近にもある気がするのです…。


例えばファッションにしてもそうで、覚えたての頃は何もかもが新しく見えていたハズでした。最初の頃は買ってきた服を家で何度も試着しては、嬉しくて鏡の前でこ踊りしたもんでした。

それがいつの間にか当たり前のようになり、縫製の良し悪しがわかるようになってその稚拙さに愕然とし、自分が好きだったブランドが、海外のモードのパクリでしかないことに気付いてショックを受けたり…。

そのうちむさぼる様に知識を求めて、本物のモードしか認めないほど狭量になり、単なるお洒落だけでは満足できなくなってしまったり。
そうなる頃には、周りのちょっと服好きの人たちとは話が合わなくなっている…。

お洒落をするだけで楽しかった時があったはずなのに、そのうち何のためにこだわっているのかわからなくなってきたりするんですよね。本末転倒もよいとこです。ファッションって客観性は必要だろうけれど、結局楽しめなくては意味がないとも思うわけです。(自戒の念もこめて…笑)

でもそれはファッションに限った話ではありません。

映画好きったって、黒澤監督映画なんて見た事ないって人も少なくない。演劇好きといってもシェークスピアの四大悲劇に「ロミオとジュリエット」が入るのか分からないかもしれないし、アート好きといっても安藤忠雄と草間弥生を知っているとは限らない…。

洋楽なんかニルヴァーナとオアシスは知ってても、エモ系なんて何ぞや?という人の方が多いはず…。(特に音楽はジャンルの幅が広いですしね) むしろそれが当たり前なんですね。

オタク趣味だって、好きで絵を描いているうちにいつの間にやらコミケの外周なんかになった日にゃ、その内お金目当てで本作るようになる…(笑) 

これが更にマニアックな趣味だったりすると目も当てられない…。文系な趣味にこだわり始めると、いつの間にか孤独になっているのが普通なのかもしれません。だからこそコアな話題の合う人が見つかると、本当に嬉しかったりするもんですが(笑)

たかが趣味でもこれだけ孤独になるのだから、クリエイターの孤独なんて苦痛どころの騒ぎじゃないと想像するわけです。

アンドレ・ジッドの「狭き門」も似ていますね。(そもそも題名は聖書の「狭き門より入れ」からきているワケで…) そのヒロインは愛する主人公のためにも自らを高め孤高の道を選ぶのですが、結局現世の愛には相容れず別れをつげてしまう…という内容です。

自分のような凡人には、狭き門に至ることで、そこまでして幸せがあるんだろうか?と思ってしまいます。

そういえば「エースをねらえ!」でも同じような台詞がありました。

「『高みを目指したときから、人は誰でも孤独になる。』

まわりでどれほど君を愛していようと否応なく君のそばから一人また一人友は遠のき先輩は消える。はじめ大勢で背負っていた物がいつしか君だけの肩にのしかかる。それでも君は坂道を登らなければならない、孤高になってゆかねばならない。

『それが高みを目指す者の運命だ!』」と。
運命って…そんな重いもんなんでしょうか…。

趣味が深みにはまっていくのは、孤高を目指しているわけじゃないでしょうけれど(笑) でも知れば知るほど自分が無知であることに気付く。そして逆に無限の世界が見えるようになってくる…。

それを孤独と感じるか、それとも楽しいと感じるか、それらが混沌とした感情を持ちつつも、人は知識欲を捨てられないものなのかもしれません…。
人間って矛盾した生き物なんですよね。それが人間らしさでもあるんでしょうけれど(笑)

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