ポールスミスがうける理由


「ヴィジョナリーズ」という、ファッションデザイナーへのインタビュー記事をまとめた本の中で、ポールスミスについてこう書かれていました。

「ひねりのきいたクラシック」

まさしくこれこそが、ポールスミスを的確に表現した一言だと思うわけです。

ポールスミスは多くの人に支持されつつも、逆に非難をも浴びやすい稀有なブランドの一つです。
(ファッション系ブログには話題にするのが難しい三つの鬼門ブランドがあると思うのですが、それがギャルソン、ヴィヴィアン、ポールスミスだと思っています(笑))

ファッションに目覚めたばかりの頃は、ポールスミスの洒落たデザインにはまり、
よりファッションに詳しくなると、ポールスミスのわかりやすいデザインに飽きてしまいいったん卒業し、
そして「スーツを着こなす」ようになる頃にまた、ポールスミスのデザインが気になってくる…

というのが一般的なポールスミスとの付き合い方(?)なんじゃないでしょうか(笑)

ポールスミスというブランドがいわゆるマルイ系ブランドと一線を画しているのは、いやそれどころかコレクションを行うデザイナーズブランドとさえ違うのは、クラシックに対するアプローチの仕方です。


ポールスミスとクラシック

以前も書きましたが、落合正勝氏の著書の中に、このような文章があります。

「彼ら(デザイナー)は一見新しいスーツをデザインしているように見えるが、決してそんなことはない。クラシック、つまり英国のスーツを根底に、それをどんな風に砕くか腐心しているに過ぎない」

いわゆるデザイナーズブランドのほとんどが、クラシックという基本をいじくり流行風な味付けをしているだけだということでしょう。中にはアルマーニのように、真に新しいクラシックを作り上げる天才もいるとは思います。
しかしモードのデザイナーズブランドの服の多くが、流行とともに古臭いものに変わってしまっていく、それは避けられない事実だとも思うわけです。

ところがポールスミスのクラシックへのアプローチの仕方は、これらのデザイナーズブランドと全く違います。
ポールスミスは全くクラシックスタイルを崩さずに、そこに遊びやひねりというものを加えて新鮮なスタイルを提案しているブランドだからです。

デザインの手法が違うんですね。

一見クラシックをいじらないというと簡単に聞こえます。
しかし実はクラシックスタイルという厳しい制約の中で常に新鮮なデザインを作るのは、とても難しい行為だと思うわけです。

なぜなら多くの若手デザイナーたちが、クラシックをいじくり倒して消費されるだけの服を発表しているではないですか。
それでいて、クラシックそのものに対する破壊と再構築のデザインを行えるのは、本当にごく優れたデザイナーだけ。

ポールスミスはクラシックスタイル自体には手をつけず、アイディアやヒネリを加えるというワザだけで、十年以上も人気を保ち続けているという、本当はすごいブランドだと思うのです。

ポールスミスとライセンス

この思想はライセンスライン、商品にも徹底されていると思います。

アルマーニが流行った時も、プラダが流行った時も、ポールスミスは常にブリティッシュ(英国)スタイルを貫いてきました。
(正確に言うと、ちょっぴりその流行は取り入れたりしているのですが、基本ははずしていないということで…笑)
プラダのベルクロシューズや、プラダスポーツの赤ラインシューズが流行り、ドメスティックブランドがこぞってマネした時でさえ、ポールスミスは媚びることなく、英国高級靴のトリッカーズとクロケットを売り続けました。

今でこそ6万円以上の高級靴は売れるようになっていますが、昔はドメスティックブランドなんて、2万以下の手抜き靴しか売っていなかった時代です。その頃から高級靴を売り続けるその姿勢は、やはり評価されるべきではないかと思います。

それとポールスミスは人気のあるブランドにも関わらず、ほとんど安易なキャラクターラインやロゴ商品を作ったりしていません。
どこぞのブランドのように偉そうに神格化して語られているにも関わらず、キャラクターラインやロゴものできっちり稼いでいるブランドではないんですね(笑)

安易なデザインではなく、誰にもわかりやすい洒落たデザインを作るというのはそれなりに難しいものだとも思います。

そしてポールスミスはほとんどクラシックなアイテムだけを提案し続けている、希少なデザイナーズブランドだといえます。
クラシックスタイルが基本となっているから、流行に左右されにくく、また突飛なスタイルになることがない。それはメンズ服のデザインの根本なのではないかと思えます。

ポールスミスの評価について

ポールスミスは服好きからは、過小評価されているデザイナーズブランドの一つではないでしょうか。
その裏にあるクラシックスタイルへの敬虔さ、真摯さを感じることができれば、ポールスミスの行っているデザインというものがもう少し評価されてもいいのではないかと思うのですが。

さて、最後にモーリスルブランの名言を借りて、ポールスミスの評価を締めて見たいと思います。

「ポールスミスをよく言う人は服を充分知らない者であり、
ポールスミスをいつも悪く言う人は、服を全く知らない者である」

とこんな記事を書いている自分ですが、実は特別ポールスミスが好きなわけではなかったりするんですが…(苦笑)

ヴィジョナリーズ ファッション・デザイナーたちの哲学
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