テーラーが絶滅した理由


昔まだつるしのスーツがなかった頃、街には必ずテーラーのお店があり、スーツをオーダーしてくれていました。

しかしもう随分前からテーラーは完全な斜陽産業と化し、スーツをオーダーするなんて一部の上流階級か服オタだけになってしまいました…。
今の日本のスーツ業界は、完全な職人不足です…。


服飾で最も縫製技術を求められるのは男性のスーツです。
しかしそのスーツを採寸から完成まで一人でぬう為には、最低でも十年の下積みが必要だといいます。しかし現状では十年も下積みして一人前になったところで、その後に高給取りになれるわけでもない。常に受注があるわけでもないのです。

そのためテーラーのなり手はごくわずか。地方のテーラーの二代目等も多いのですが、実際には知識がつく数年くらい下積みして、後は店をついで作業自体は職人にまかせる…という人も多いそうです。それでさえ採算が合わずに店をたたんでいく人が後を絶たなかったのです。

なぜそんな風になってしまったのか?単純にスーツが大量生産されるようになり、オーダーの需要が減ったため…だけなんでしょうか?
確かにそれは重大な理由なのかもしれませんが、そこにはもっと違う理由があると思うんですね。

ファーストフードが巷にあふれても、一流の料理人が職にあぶれたわけじゃありません。
なのにスーツが大量生産されるようになって、技術を持っていた街のテーラーは消えてしまいました…。
そこには単純な需要の問題だけでなく、スーツの難解さと、日本人の気質が絡んでいると思うんですね。

味の良し悪しは大概の人がわかりますが、服の良し悪しは中々わかるものではありません。
また、年間百万以上服にお金をかける人でも、例えばスーツの裏地の効能については知らなかったりします。車や高級腕時計のようなスペックで語れる物については、雑誌で再三紹介されるのですが、逆にスーツに詰めこまれた英知などがあまり紹介されないのも原因だと思います。

知らない、違いがわからないのであれば、お金をかける必要はないと思うのは当然といえば当然…。逆に違いがわからないから、ブランドを信望してしまう面も否めない…。

それと本来手縫いのスーツには、愛着を持って長く着てもらうための技術が込められています。手縫いのスーツが当たり前だった時代には(高額だったこともあり)、裏地を張り替えたり修理しながら長く着用したそうです。

でも今の日本では良いものを長く着るより、流行に合わせて数年で取り替えていってしまうのが当たり前…。

まぁ物価のせいもあるんでしょうが、フルオーダーのスーツは昔に比べてどんどん値上がりしていますよね。一人の職人が作れるのはひと月に3~4着というので、逆算すればスーツ一着の値段が幾らになってしまうのかもわかります…。

雑誌で紹介されている英国帰りの若手職人が、スーツ一着最低36万からというのも納得の値段なのかもしれません…。
このまま職人が減ってしまえば、値段は更に高騰するでしょう。

しかしなによりも、本当に服作りに信念を持っていた職人と、その技術が失われてしまうことが、とても悔しいと思うのです…。

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