宮部みゆきの「火車」を読んで~カード社会の抱える矛盾~


火車 (新潮文庫) 火車 (新潮文庫) 宮部 みゆき新潮社 1998-01
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十代の読書家時代から一転して活字嫌いになっていたのに、最近珍しく読書熱が再発。

そこで宮部みゆきのベストと名高い「火車」を購入し、…なんと一晩で読破してしまいました。(若いなぁ)

クレジットカード社会、消費者金融、ローン地獄、自己破産という現代社会の抱える暗部をえぐる、松本清張ばりの社会派ミステリー。

といっても巷で絶賛されているほど面白いかというと個人的には微妙でした(笑) 正直85点くらい。ただその借金に追われる人々の心情を描くリアリティに、胃の腑に鉛をぶち込まれるようなじっとりした重さを感じさせられました。

あらすじは以下の通り。

「主人公である休職中の刑事は、親戚の男性に頼まれ、突如失踪した婚約者の行方を探すことになったのだが…。実はその彼女は過去にカード自己破産暦があった…。捜索を進めるうちに徐々に浮き彫りになってくる容疑者となる女性像…、そこには自己破産者の凄惨な人生が隠されていた…」


始めはスローペースの展開がやや煩わしいものの、物語が核心に迫るにつれストーリーは一気に急展開し、傑作小説の持つ独特のベクトル感覚でぐいぐい引き込まれてしまいます。展開自体に斬新さはないのですが、抜群の筋運びのうまさにどんどんページが捲られていく感じ。

(謎を残したままのラストシーンに賛否両論あるようですが、自分としてはバッサリ切った後味がスッキリしていてこれでよかったと思います)

作中登場する、自己破産手続きを行っている弁護士の言葉が胸に刺さります。

「カード破産する人間なんて本人の意識が足りない、しょせん対岸の火事だと考えている人が多いが、実際には現代のカード社会自体の持つ欠陥が破産者を増やす結果につながっている。いつ何時自分達が同じ目にあうとも限らないのだ」と警鐘を鳴らしています。

自分自身がカード会社のシステム開発に携わっており、ほとんどカードで支払う生活に慣れていて…オマケに身近に破産寸前となった人がいたため、とても人事とは思えず…。読みすすめるにつれ借金スパイラルに陥る破産者の苦悩が痛いほど伝わってきて、心臓をぎゅうっと鷲づかみにされたような胸苦しさに襲われます。

途中容疑者の家族の悲惨な生い立ちが語られるのですが、取立て屋に捕まった母親は、覚せい剤漬けにされ強制売春…ボロ雑巾のようになって病死します。

でもこれはしょせん小説、非日常の世界、というわけではない…。ごく普通の当たり前にあった出来事なわけで、その真実味にぞっとさせられます。

そして未だに増え続ける借金に苦しむ人々と、中には一家離散、自殺までしてしまうというこの無法が許されている現実に、憤りとやるせなさを感じてしまうのです。

そしてまた自分と自己破産者たちとの違いは一体なんなのだろうと考えさせられます。

自分自身が身近に経験し、そして多くの破産者を見てきた人に聞いたりした事ですが、破産者と通常の人では借金に対する現実感が違うのだそうです。

ATMでキャッシングなんてするとき、始めての時は背筋に悪寒が走るけれど、2回3回と繰り返すうちにそれがまるで預金を引き下ろす感覚に変わっていく…。

通常の人ならたとえ不慮の事故で借金を作ってしまっても、何とか返そうと責任感が働くが、借金癖のついた人はもはや借金から現実逃避することしか考えられなくなっていくのでしょう。

それはもしかしたら紙一重の差かもしれないけれど、キモに命じなければならないことなのだと思います。

正直自分も何十万円分もの洋服買うのにカード分割したりしたこともありましたが(苦笑)、今後カードで買物するたびにこの小説を思い出しそうです。

せめてこれからは財布の紐を固く、ぎゅうぅっと縛っていきたいものです。(といって最後無理矢理ファッション話にこじつけた~!)

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