さまよえる装苑賞


7月号の装苑は、第80回の装苑賞の発表でした。
http://www.bunka.ac.jp/soen/

装苑賞といえば現役の有名デザイナーを多数排出している、由緒正しいファッション賞の一つです。
しかし最近の装苑賞の発表を見るたびに、自分はどうも落胆してしまうことが多いのです。

特に今回は選考が荒れたようで、審査員たちのコメントも微妙な物が多い(笑) というか本音は応募作のレベルの低さに辟易している感じが伝わってくるんですよね…。
山本耀司なんか「今回は審査が大変困った。自分はもう古いのかな。今回は(なにがよいのか)よくわからなかった…」と暗にダメだししているわけですよ。

今回装苑賞を受賞したのは、バッグが洋服に変身するというちょっと変わったコンセプトの作品。バッグから人が現れる姿はまるでエスパー伊藤です(笑)
バッグが洋服になるというアイディア自体は目新しい物ではないと思うのですが、とにかくバッグに隠れていた人が現れて、洋服になるというコンセプトは面白い。ただそのアイディアがきちんと昇華されていたか…というと、どうも未消化だったように思えてならないのです…。


装苑賞受賞者本人はこう語っています。「アイディアよりも服という概念自体が大事だ」と。

しかし実際出来上がってきた作品は、どう見てもアイディア倒れにしか見えない。というのも服として見ると、力強い「美しさ」もなければ「魅力」にもかけていました。正直ファッションとしてこの服を着てみたいと思える感じでもない…。
それは他の受賞者達にも言えることですが、全体的にコンセプトは良くても、そこから更にファッションとしての練りこみや完成度が足りないように思えるのです…。

最近になり装苑賞の審査方法が変わって、3体のバリエーションを制作するようになり、応募者のトータルな実力が試されるようになりました。そしてその結果、応募者自体の未熟さが余計に露呈するようになってしまった気がします…。

それは単純に経験不足からくるものなのでしょうか?
確かにそれもあるとは思います。応募者達は皆駆け出しで、服作りの経験も少なく、そのため服という既成概念自体が把握できていない。
だから既成概念を破壊することも、再構築することもできない。それゆえ余計にアイディア頼みになってしまうという部分はあると思うのですね。
(こんなこと言ってる自分自身も、服の既成概念なんてよくわかってないですけど…苦笑)
(細かいことを言えば、テーラリングに関しての知識不足もあるでしょう。もし装苑賞の応募要項がメンズのクラシックオンリーだとしたら、応募作のレベルは愕然と下がるんじゃないかと思います)

ただ、経験不足よりも更に深刻に思えるのは、応募者達の意識が足りないのではないか?ということです。

装苑賞受賞者本人はこうも語っています。「10体、20体のバリエーションを作れといわれれば作りますよ」と。

その台詞はそれだけのアイディアがあるという自負心からきているのでしょうが、実際プロなら数十体のバリエーションを作るのは当たり前なんじゃないでしょうか。
クリエイターに言わせると、アイディアを100個思いついても、実際使えるのは2~3個あればいいほうだと言います。とするならば、「千や2千のアイディアは出せるし、100体、200体はバリエーションを作りますよ」というのが、本当のプロ根性なのだと思うのです。
(そしてそこまでやり遂げる基礎体力があれば、自然と既成概念もわかってくるんじゃないかと思うんですよね)

ちょっと話は変わりますが、週間少年ジャンプの元編集長に鳥嶋氏という人がいます。この鳥嶋氏はかの鳥山明を発掘したりと、凄腕編集者として知られていました。その鳥嶋氏は天才といわれた鳥山明がデビューするまでに、百回以上ボツを食らわしたという伝説も残っています。
(その甲斐あってか鳥山明は「ドクタースランプ」で、ジャンプ史上初の2話連続掲載という驚異の連載デビューを果たします)
鳥嶋氏が編集長になり、少年ジャンプ誌上で新人発掘の漫画賞の選考をした時も、とんでもない酷評を放っています。
「頭がハゲるほど悩んで悩みぬいて作品を作って来なさい!」と。

正直装苑賞審査員も、ダメならダメとハッキリ酷評すればよいと思うのです。
中途半端な褒め言葉で苦労をねぎらうよりも、突き刺さるような評価の方が、駆け出しデザイナーにとっては本当に必要な言葉なんじゃないかと思うのです。
そして装苑賞として妥当でない、実力不足と思えば、「装苑賞該当策なし」にしたってかまわないはず。
今の装苑賞には、応募者にも審査員にもそこまでの迫力が感じられないのです。

賞を取るために努力する人は、しょせん「プロ止まり」なんじゃないでしょうか?
プロになることは難しくはないでしょう。しかし、そこからどのような物を作り出していくかが、本当のクリエイターの勝負なんじゃないかと思うのです。
「吐き気をもよおすほど、頭がハゲるほど悩んで作品を作る」
これはプロのクリエイターにとっては当たり前のことなのではないでしょうか?

山本耀司は、娘のリミがデザイナーになる時にこう言ったそうです。
「地獄へようこそ」と。
そしてその地獄を越える者だけが、本当の傑作を生み出せるのだと思います。
願わくば、地獄を乗り越えた者達による珠玉の傑作を期待したいものです。

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