映画「ロード・オブ・ザ・リング」をぶった斬る!(前編)


指輪物語の映画化「ロード・オブ・ザ・リング(The Lord of the Rings)」についての評論(前編)です。

壮大なスケール感や、指輪物語の世界観をここまで映像化したのは本当に素晴らしいと思います。

しかしこの映画に関しては、あまりに納得できないところが多すぎるんですね。




原作ファンにとってはうれしい出来になのかも知れませんが、とにかく人間ドラマが希薄すぎるんです。
(原作自体もただ単に最初の古典だから取りざたされているだけで、ドラマは描けてないですからしょうがないのでしょうが…)

映画の問題点では、エントたちは、「あなた達だってこの世界に住んでいるじゃないですか!」というホビット達の助けも無視し、「人間が死のうが知ったこっちゃない」って態度。それなのに、自分らの森が破壊されているのをみたら逆上して敵に総攻撃。利己的過ぎです。これでは作品のテーマと矛盾しています。

ファラミアは、なぜ死罪を覚悟してまでフロド達を信じることにしたのか?
その理由がキチンと描かれていないため、さっぱり感動につながらない。
とにかく登場人物たちの動機と心変わり、葛藤がまったく描けてないので、感情移入出来ない。シナリオは最悪です。正直ドラマが好きな映画ファンにとっては、納得のいかない作品になってしまったのではないでしょうか?

確かに壮大な世界観とキャラクターたちを描いた原作はすばらしいしと思うし、この映画も原作の映画化という点では及第点だと思います。

しかし、やはりこの映画はドラマが疎かになっていることは否めません。

指輪物語の主人公が担うテーマはサウロンとの戦いよりも(結局最後まで直接対決しませんし)、指輪の誘惑にかられる弱い自分自身との戦いです。しかし本来そういうテーマにあるべき心の葛藤が描かれていないのです。

フロドが誰かを犠牲にしてまで指輪を利己的に使おうとしたり、逆にその使命の重圧から逃れるために指輪を投げ捨ててしまったり、そういった葛藤がもっと丁寧に描かれていれば、見る人もより主人公に共感することが出来たでしょう。そして葛藤を乗り越えようとする主人公たちの行動を描けばこそ、ファラミア達が主人公たちを信じようという心境の変化に納得がいくのです。

ところがこの映画はストーリーを追うことを優先し、主人公たちの心の葛藤や成長を描くことを犠牲にしてしまっています。

もし主人公たちの心情を描くことを優先していたら、もっと別の指輪物語の映画が出来たのではないかと残念です。

直接映画とは関係ないのですが、原作の指輪物語以後、同じようなテーマを持つファンタジー小説が多数出ています。
たとえば指輪物語に似ているとファンから黙殺されている作品ではありますが、「信ぜざる者コブナント」シリーズ。
書評家に指輪物語の時代は終わったとまで言わしめたこの傑作は、人間ドラマとしてははるかに指輪物語をしのぐ作品になっています。

そういった作品が多くでているのに、結局一番最初にやったもん勝ちの指輪物語が残っているのは、やはりコレだけオタク気質な作品を最初に作り上げたという功績が大きいのでしょうね。
結局コレを越える作品を作っても、指輪物語の二番煎じというレッテルを貼られてしまうのだろうし。
そういう意味では、「一番最初にやる」ということは、とても偉大なことなのかもしれません。

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